おジャ魔女A

記憶 どれおん

私が泣くと、いつも涙を拭ってくれるのは彼だった。彼の前では何故か素直に泣けた。
でも今、目の前にいる彼は私のことを知らない。

どれみ君が、交通事故に合ったと聞いたとき仕事を中断して彼のところに走った。
病室の扉を開けると思ったより軽症で安心していた私は、みんなの暗い顔に気づかなかった。

「よかった。思ったより軽症だったみたいね」
近づきながら話しかけたら「君 誰?」
ショックで立ち止まったままの私を あいちゃん達が部屋から連れだし説明してくれた。

彼は私たちのことは、もちろん自分のことも忘れてしまったと聞いた。


数日後、学校に来たけど、やっぱり記憶が戻ってないみたいで私のことを「瀬川さん」と呼び…距離が、もの凄く離れていった気がした。

一緒に居ても一緒に話してても傍にいても心が遠い。苦しいよ

彼は悪くないのに…私は彼の前で泣いてしまった…
きっと、いつもみたいに涙を拭ってくれるはずないのに。

そんなことを思いながら、ますます止まらない涙を手で覆い隠す。
困らせたくない。
いま彼は記憶がなくて辛いのに…
そんなことを思っていたら、両手を退かされ…彼が
いつものように手で涙を拭ってくれた。

「泣くなよ。」
いつもより、ぶっきらぼうな言葉だけど…涙を拭う手は、いつもと同じように暖かくて優しかった。

私は思わず抱きついて思いっきり彼の腕の中で泣いた。

一時間くらいして、やっと落ち着いてきた私は、静かに彼の腕から離れた。
「ごめんね。」
そう言って未だに止まらない涙を隠しながら一歩下がろうとしたら
「おんぷの涙を拭うのは、俺の役目だろ」
そう言って、また涙を拭ってくれた。
「なんか、おんぷが泣いているのを見たら…落ち着かなくて。おんぷが腕の中で泣いているのを見てたら…記憶思い出したよ」
そう言って彼は苦笑していた。
あたしは、思い出してくれたのが嬉しくて、また、彼の腕の中で泣いた。

どれみはポンポンと、おんぷの頭を軽く叩きながら
「相変わらず泣き虫だな」と笑っていた。

私が泣くのは貴方の前だけ。と心で呟きながら、彼の心臓の音を聞きながら幸せに浸っていた。

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